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津地方裁判所 平成8年(行ウ)7号 判決 1998年9月10日

原告

河合勝雄

渡邉裕輔

右原告ら訴訟代理人弁護士

松葉謙三

被告(「被告1」という。)

加藤寛嗣

外三二名

右被告ら訴訟代理人弁護士

和藤政平

伊藤友一

主文

一  被告1加藤寛嗣及び被告4田中俊光は、四日市市に対し、連帯して金一〇〇万三一四二円及びこれに対する平成七年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告2加藤宣雄は、四日市市に対し、金九二万八一四二円及びこれに対する平成七年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告3佐々木龍夫は、四日市市に対し、金一万八一五〇円及びこれに対する平成七年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告5長谷川昭彦は、四日市市に対し、金二二万〇二五〇円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告6伊藤雅敏は、四日市市に対し、金四万一四四一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告7青山弘忠、被告8市川正徳、被告9土井数馬、被告10中森愼二は、四日市市に対し、それぞれ金四万二七一一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告11市川悦子、被告12久保博正、被告13小林博次、被告14長谷川昭雄、被告15益田力、被告16毛利道哉は、四日市市に対し、それぞれ金二万五二八一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告17伊藤正巳、被告18宇野長好、被告19喜多野等、被告20瀬川憲生、被告21田中武、被告22日置紀平、被告23水野幹郎は、四日市市に対し、それぞれ金二万四〇一一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

九  被告24小井道夫、被告25佐藤晃久、被告26田中俊行、被告27豊田忠正、被告29森眞壽朗は、四日市市に対し、それぞれ金二万二七四一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一〇  被告30栗本春樹は、四日市市に対し、金七九八〇円及びこれに対する平成七年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一一  原告らの被告2加藤宣雄に対するその余の請求を棄却する。

一二  原告らの被告3佐々木龍夫に対するその余の請求を棄却する。

一三  原告らの被告14長谷川昭雄、被告16毛利道哉、被告30栗本春樹に対するその余の請求に係る訴えを却下する。

一四  原告らの被告31森下元市、被告32大井一美、被告33杉村厚に対する訴えを却下する。

一五  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告31森下元市、被告32大井一美、被告33杉村厚を除く被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告1加藤寛嗣、被告2加藤宣雄、被告3佐々木龍夫、被告4田中俊光は、四日市市に対し、連帯して金一〇〇万三一四二円及びこれに対する平成七年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告5長谷川昭彦は、四日市市に対し、金二二万〇二五〇円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告6伊藤雅敏は、四日市市に対し、金四万一四四一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告7青山弘忠、被告8市川正徳、被告9土井数馬、被告10中森愼二は、四日市市に対し、それぞれ各金四万二七一一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告11市川悦子、被告12久保博正、被告13小林博次、被告14長谷川昭雄、被告15益田力、被告16毛利道哉は、四日市市に対し、それぞれ各金二万五二八一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告17伊藤正巳、被告18宇野長好、被告19喜多野等、被告20瀬川憲生、被告21田中武、被告22日置紀平、被告23水野幹郎は、四日市市に対し、それぞれ各金二万四〇一一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告24小井道夫、被告25佐藤晃久、被告26田中俊行、被告27豊田忠正、被告29森眞壽朗は、四日市市に対し、それぞれ各金二万二七四一円及びこれに対する平成七年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告30栗本春樹は、四日市市に対し、金七九八〇円及びこれに対する平成七年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

九  被告14長谷川昭雄、被告16毛利道哉、被告30栗本春樹、被告31森下元市、被告33杉村厚は、四日市市に対し、それぞれ各金一万八七〇〇円及びこれに対する平成七年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一〇  被告32大井一美は、四日市市に対し、金一万六一〇〇円及びこれに対する平成七年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一一  被告14長谷川昭雄、被告16毛利道哉、被告30栗本春樹、被告31森下元市、被告32大井一美、被告33杉村厚は、四日市市に対し、連帯して金五万五五七六円及びこれに対する平成七年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

原告らは、肩書地に住所を有する四日市市民である。

平成七年三月当時、被告1は四日市市長、被告2は同助役、被告3は同市長公室長(部長職該当)、被告4は同秘書課長、被告5は同市議会事務局長、被告6ないし27及び29は同市議会議員であったものである。また、平成七年一月当時、被告30は四日市市代表監査委員、被告14、被告16及び被告31は同監査委員、被告32は同監査委員事務局長、被告33は同書記であったものである。

2  鳥羽市での懇談会(以下「鳥羽懇談会」という。)への公金支出

平成七年三月二三日、鳥羽市において、四日市市幹部二三名、同市議会議員二五名(被告6ないし27、被告29、訴外野崎洋及び訴外亡堀内弘士)及び同代表監査委員(被告30)が参加した懇談会が開催された。右懇談会に支出された費用、支出費目及び決裁者は、以下のとおりである。

(一) 懇談会費(九二万八一四二円)

(1) 懇談会費は、平成七年五月二日、四日市市の市長交際費から支出された。懇談会費の内訳は、以下のとおりである。

①夕食費 四九万〇〇〇〇円(四九名×一万円)

②夕食追加料理 二万五〇〇〇円(五×五〇〇〇円)

③宴会費

日本酒 一〇万九五〇〇円(一五〇本×七三〇円)

ビール 五万六一〇〇円(六六本×八五〇円)

吟醸酒 二万八〇〇〇円(四本×七〇〇〇円)

ウーロン茶 一万四八〇〇円(四〇本×三七〇円)

ジュース 八〇〇円(二本×四〇〇円)

④コンパニオン代 一四万四〇〇〇円(八名×一万八〇〇〇円)

⑤消費税・特別消費税 二万一一九二円

⑥ 土産代 三万八七五〇円(二五個×一五五〇円)

(2) 四日市市においては、交際費の支出負担行為については、五〇万円以上が助役の、三万円以上五〇万円未満が部長の、三万円未満が課長の専決権となっており(四日市市事務専決規程別表第1〔3〕15(10))、右懇談会費の支出負担行為の専決者は被告2であった。また、同じく交際費の支出命令については、一億円以上が助役の、三〇〇〇万円以上一億円未満が部長の、三〇〇〇万円未満が課長の専決権となっており(同別表第1〔3〕23(7))、右懇談会費の支出命令の専決者は被告4であった。

(二) バス借り上げ費(七万五〇〇〇円)

借り上げバスは、議員等の鳥羽への往復手段として利用され、右バス費は、平成七年四月二〇日、四日市市の秘書課の使用料から支出された。

四日市市においては、使用料の支出負担行為については、二〇〇〇万円以上が助役の、三〇〇万円以上二〇〇〇万円未満が部長の、三〇〇万円未満が課長の専決権となっており(四日市市事務専決規程別表第1〔3〕15(14))、右バス費の支出負担行為の専決者は被告4であった。また、使用料の支出命令の専決権は、(一)の交際費の場合と同様であり、右バス費の支出命令の専決者は被告4であった。

(三) 議員の旅費(二二万〇二五〇円)

議員の旅費(車賃・日当・宿泊代)は、平成七年四月一一日、四日市市の議会費の旅費から支出された。車賃は、議員のうち、近鉄電車を利用して鳥羽へ行った者に支給された。日当は、鳥羽懇談会に参加した議員全員に支給された。宿泊費は、懇談会の後に鳥羽で宿泊をした被告6ないし10に支給された。各議員ごとの車賃・日当・宿泊代は、別紙旅費目録記載のとおりである。

四日市市においては、四日市市事務専決規定別表第1に定める助役専決区分以上のものを除き、市議会の所掌に係る事項に関する予算執行権は、四日市市議会事務局長に委任されている(四日市市議会事務局長に委任する事項を定める規則第2条(1))。また、議会事務局議事課長は、市議会事務局の処務のうち、四日市市事務専決規程別表第1に定める課長専決区分に掲げる事項を専決することができる(四日市市議会事務局処務規程第9条2)。そして、四日市市事務専決規程別表第1によれば、旅費の支出負担行為の専決者は出張命令の決定区分によることとされ(別表第1〔3〕15(9))、「その他の職員」に対する市外出張命令の専決者は課長とされている(別表第1〔2〕5)。以上の規定により、「その他の職員」に該当する議員らの旅費の支出負担行為については、当時の議会事務局議事課長たる伊藤千秋が専決者であった。また、旅費の支出命令の専決者は、(一)の交際費の場合と同様であり、右旅費の支出命令の専決者は、当時の議会事務局議事課長たる伊藤千秋であった。

(四) 被告30の旅費(七九八〇円)

被告30の車賃四一八〇円及び日当三八〇〇円は、平成七年四月一四日、四日市市の監査委員費の旅費から支出された。

四日市市の監査事務においては、監査事務局次長が、四日市市事務専決規程別表第1に定める課長専決区分に掲げる事項を専決することができるところ(四日市市監査事務局規程第3条2(1))、同別表第1における旅費の支出負担行為の専決者は(三)と同様であるから、代表監査委員の旅費の支出負担行為の専決者は当時の監査事務局次長たる益川昭二であった。また、旅費の支出命令の専決者は、(一)の交際費の場合と同様であり、右旅費の支出命令の専決者は当時の監査事務局次長たる益川昭二であった。

3  横浜市における視察(以下「横浜市視察」という。)への公金支出

被告14、被告16、被告30ないし33(以下「被告監査委員ら」という。)は、平成七年一月一九日から二〇日にかけて、「監査事務等実施状況の視察」として横浜市監査委員事務局等を訪問した。右視察に支出された費用のうち、本件訴訟で違法性が争われているものの支出費目および決裁者は、以下のとおりである。

(一) 二日目の日当・宿泊費(一〇万九六〇〇円)

右日当及び宿泊費は、平成七年一月一七日、四日市市の監査委員費の旅費から支出された。被告32の日当は三〇〇〇円、宿泊費は一万三一〇〇円であり、その余の被告らの日当は三八〇〇円、宿泊費は一万四九〇〇円であった。

四日市市の監査事務における、旅費の専決権は前記2(四)のとおりであり、右旅費等の支出負担行為及び支出命令の専決者は、いずれも当時の監査事務局次長たる益川昭二であった。

(二) 交際費(五万五五七六円)

右交際費は、平成七年一月一七日、四日市市の監査委員費の交際費から六万円が支出され、同年一月二三日に四四二四円が戻入された。右交際費は、被告監査委員らの平成七年一月一九日の夕食(三万三一七六円)と翌二〇日の昼食(二万二四〇〇円)に費消された(但し、右夕食及び昼食が、監査委員と監査事務局職員との懇談会であったかについては争いがある。)。

四日市市の監査事務においては、監査事務局長が、四日市市事務専決規程別表第1に定める部長専決区分に掲げる事項を専決することができ、次長は、同別表第1に定める課長専決区分に掲げる事項を専決することができる(四日市市監査事務局規程第3条(1)、同条2(1))。同別表第1における交際費の支出負担行為及び支出命令の専決区分は、前記2(一)と同様であるから、右交際費の支出負担行為の専決者は被告32、支出命令の専決者は当時の監査事務局次長たる益川昭二であった。

4  監査請求と監査結果

原告らは、平成八年四月三日、四日市市監査委員に対し、地方自治法(以下「法」という。)二四二条一項に基づき、鳥羽懇談会と横浜市視察に関する公金支出につき監査請求をした。これに対し、監査委員は、平成八年五月一五日、鳥羽懇談会については原告らの主張は理由がないとして棄却し、横浜市視察については、当該行為があってから一年以上経過してからの監査請求であるとして却下した。

二  争点についての当事者の主張

1  本件懇談会への公金支出が違法であるか。

(一) 原告らの主張

鳥羽懇談会は、市会議員の当選祈願と宴会を目的に行われたもので、市政と全く関係のないものである。監査結果によれば、鳥羽懇談会の目的は「情報・意見交換並びに市政発展への尽力に対する感謝と慰労等」とされているが、「意見交換のため」ならば、市役所や議会で十分であるはずであり、何も鳥羽まで行って、コンパニオン八人も使い、贅沢な料理を取り、多量の酒(一人五本)を飲んで、宿泊までして、多額の公費(一人当たり約二万五〇〇〇円)を使う必要性は全くない。「感謝のため」ならば、せめて四日市市内で質素にすべきである。鳥羽懇談会は、何の議題もなく、コンパニオンを入れて、日本酒一五〇本、ビール六六本、吟醸酒四本もの酒を飲んでのもので、雑談か、コンパニオンとのおつきあいでしかなく、議員と市幹部のなれ合いの宴会というほかない。本来、市議会は行政をチェックするという大きな役目を持っており、市の幹部から接待されるのはもってのほかである。

また、被告らは、鳥羽懇談会へ赴く途中、伊勢神宮外宮に一五時から一五時三〇分まで、伊勢神宮内宮に一六時から一七時まで滞在しているが、これらの事実からすると、鳥羽懇談会の主目的は、伊勢神宮で市議会議員が当選祈願をすることにあったとしか考えられない。

以上によれば、鳥羽懇談会は単なる宴会と当選祈願を目的としたものであり、市長交際費、バス借り上げ費、議会の旅費、監査委員費の旅費の支出は目的外支出であって違法である。

(二) 被告らの主張

鳥羽懇談会の目的が、伊勢神宮での当選祈願であることは否認する。伊勢神宮へ行ったのは、懇談会参加者四九名中二五名であり、かつ、休憩のためであり、休憩の際に参拝するか否かは鳥羽懇談会とは直接の関係はなく、鳥羽懇談会は伊勢神宮参拝のためではない。鳥羽懇談会の目的は、市政一般について、市民の代表である市議会議員及び代表監査委員と市の幹部が率直な意見の交換、情報の交換をなし、今後の市政の適正かつ円滑な運営、発展を図るためである。そして、このような目的で懇談会を行うことは、有意義であって、何らの違法性もない。懇談会費も社会常識の範囲内であり、相当性を有しているから、違法な支出ではない。

2  鳥羽懇談会への公金支出に関する被告らの責任

(一) 原告らの主張

(1) 被告1の責任

被告1は、当時市長であったものであり、市長は本来的に予算執行権(法一四九条二号)を有しているから、懇談会費については専決者である被告2を、バス借り上げ費については被告4を、それぞれ指揮監督する責任がある。市議会議員の任期の終わり(四年に一回)に、伊勢神宮に当選祈願をし、鳥羽市で宴会を行うのは恒例であるから、二〇年以上市長を務めている被告1は鳥羽懇談会が行われることを十分承知していたはずである。それにもかかわらず、被告1は、被告2及び4の指揮監督義務を怠り、違法な懇談会費とバス借り上げ費の支出負担行為及び支出命令を阻止しなかったものであり、右義務違反につき故意又は過失がある。よって、原告らは、被告1に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)に基づき、損害金一〇〇万三一四二円及び不法行為の結果発生の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 被告2の責任

被告2は、当時助役であったものであり、懇談会費の支出負担行為の専決者である。被告2は、違法な懇談会費の支出負担行為をしてはならない義務があるのに、これを怠り、鳥羽懇談会の開催に賛成して懇談会費の支出負担行為を決裁した故意又は重大な過失がある。よって、原告らは、被告2に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)に基づき、損害金九二万八一四二円及び不法行為の結果発生の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

また、助役は、市長を補佐し、補助機関たる職員が担任する事務を監督する地位にある(法一六七条)。鳥羽懇談会は被告1が病気休んでいる間に実施されたものであり、被告2は、市長を補佐して被告4を指揮監督する義務があるのに、被告4と共謀してバス借り上げ費の支出を実質的に決定したのであるから、不法行為責任ないし債務不履行責任を負う。よって、原告らは、被告2に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)又は同号後段(怠る事実の相手方に対する損害賠償請求)に基づき、損害金七万五〇〇〇円及び不法行為の結果発生の後の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(3) 被告3の責任

被告3は、当時市長公室長であったものであり、秘書課長たる被告4の上司であり、同人を指揮監督し命令する地位にあった(四日市市役所処理規程第3条)。被告3は、被告1、被告2、被告4とともに違法な鳥羽懇談会の実施を決定し、懇談会費の支出負担行為に同意し、懇談会費とバス借り上げ費の支出に加担したものであり、故意又は重大な過失があるから、不法行為責任ないし債務不履行責任を負う。よって、原告らは、被告3に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)又は同号後段(怠る事実の相手方に対する損害賠償請求)に基づき、損害金一〇〇万三一四二円及び不法行為の結果発生の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

また、被告3は、自らも違法な鳥羽懇談会に出席し、飲食したのであり、不当に利得を得たのであるから、少なくとも不当利得返還義務がある。鳥羽懇談会では、四九人で九二万八一四二円を費消したのであるから、一人あたりの飲食代は金一万八九四一円である。よって、原告らは、被告3に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(当該行為の相手方に対する不当利得返還請求)に基づき、不当利得金一万八九四一円及び不当利得の後の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める。

(4) 被告4の責任

被告4は、当時秘書課長であったものであり、懇談会費とバス借り上げ費の支出命令の専決者である。被告4は、違法な支出命令を行わない義務があるにもかかわらずこれを怠り、違法な鳥羽懇談会の開催に同意し、懇談会費及びバス借り上げ費の支出命令を決裁したのであり、右行為につき故意又は重大な過失がある。よって、原告らは、被告4に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)に基づき、損害金一〇〇万三一四二円及び不法行為の結果発生の日である平成七年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(5) 被告5の責任

被告5は、当時議会事務局長であったものであるが、議員の旅費に関する専決権は、市長から議会事務局長へ、事務局長から議事課長へ委任されている。したがって、被告5は、議員旅費の支出負担行為及び支出命令の専決者たる議事課長を指揮監督し、違法な鳥羽懇談会への旅費支出を阻止する義務があったのに、これを故意に怠った責任がある。よって、原告らは、被告5に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)に基づいて、損害金二二万〇二五〇円及び不法行為の結果発生の日である平成七年四月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

また、仮に「当該職員」に該当しなくても、被告5には議事課長を指揮監督しなかった重大な過失があり、右行為は不法行為に該当する。よって、原告らは、被告5に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(怠る事実の相手方に対する損害賠償請求)に基づいて、右と同様の損害金の支払を求める。

さらに、被告5は、自らも違法な鳥羽懇談会に出席し、飲食して不当な利得を得たのであるから、少なくとも不当利得返還義務がある。よって、原告らは、被告5に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(当該行為の相手方に対する不当利得返還請求)に基づき、一人当たりの飲食代に相当する不当利得金一万八九四一円及び不当利得の後の日である平成七年四月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める。

(6) 被告6ないし27、29の責任

被告6ないし27及び29は、当時四日市市議会議員として、違法な鳥羽懇談会に出席し、車賃、日当、宿泊費、飲食代を不当利得した。よって、原告らは、同被告らに対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(当該行為の相手方に対する不当利得返還請求)に基づき、各自の旅費合計金額(別紙旅費目録の合計額欄記載のとおり)及び一人当たりの飲食代一万八九四一円に相当する不当利得金並びに不当利得の日である平成七年四月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める。

(7) 被告30の責任

被告30は当時代表監査委員であったものであるが、違法な鳥羽懇談会に出席し、車賃四一八〇円と日当三八〇〇円を不当利得した。よって、原告らは、被告30に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(当該行為の相手方に対する不当利得返還請求)に基づき、不当利得金七九八〇円及び不当利得の日である平成七年四月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める。

(二) 被告らの主張

(1) 被告1の責任

鳥羽懇談会に関する支出は、前記1(二)で述べたとおり、適法な支出であるから、被告1にその支出を阻止すべき義務はない。

(2) 被告2の責任

鳥羽懇談会の懇談会費については、前記1(二)で述べたとおり、適法な支出であるから、被告2が支出負担行為を行ったことに違法性はなく、同被告に損害賠償義務はない。

バス借り上げ費については、被告2は、専決権はなく、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者でもなければ、これらの者から権限の委任を受け右権限を有するにいたった者でもないから、法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」に該当しない。よって、法二四二条の二第一項四号前段に基づく被告2に対する損害賠償請求は、不適法であって却下されるべきである。仮に「当該職員」に該当するとしても、現実に専決をするなど財務会計上の行為をしたものではないので、被告2に対する損害賠償請求は理由がなく棄却されるべきである。

(3) 被告3の責任

被告3は、懇談会費についてもバス借り上げ費についても、専決権はなく、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者でもなければ、これらの者から権限の委任を受け右権限を有するにいたった者でもないから、法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」には該当しない。よって、法二四二条の二第一項四号前段に基づく被告3に対する損害賠償請求は、不適法であって却下されるべきである。仮に「当該職員」に該当するとしても、現実に専決をするなど財務会計上の行為をしたものではないので、被告3に対する損害賠償請求は理由がなく棄却されるべきである。

また、原告らは、被告3が「当該職員」に該当しないとしても、同被告は、四日市市に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負っているから、法二四二条の二第一項四号後段にいう「怠る事実の相手方」に該当すると主張する。しかし、右のような代位請求が許されるとすれば、地方公共団体の職員が、財務会計行為ではない職務行為によって、地方公共団体に損害を与えた場合にも、住民訴訟によって損害賠償請求権の代位行使が許されることとなり、地方自治法が住民訴訟の対象を一定の財務会計行為に限定した趣旨を没却するものというべきである。原告らの主張する右代位請求は、法の定める住民訴訟の類型に該当しない。よって、法二四二条の二第一項四号後段に基づく被告3に対する損害賠償請求も、不適法であって却下されるべきである。

(4) 被告4の責任

鳥羽懇談会に関する支出は、前記1(二)で述べたとおり、適法な支出であるから、被告4が懇談会費とバス借り上げ費の支出命令を決裁したことは適法であり、損害賠償義務はない。

(5) 被告5の責任

被告5は、市議会議員の旅費の支出について、専決権はなく、財務会計上の行為を行う権限を本来的に有する者でもなければ、これらの者から権限の委任を受け右権限を有するにいたった者でもないから、法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」には該当しない。よって、法二四二条の二第一項四号前段に基づく被告5に対する損害賠償請求は、不適法であって却下されるべきである。仮に「当該職員」に該当するとしても、現実に専決をするなど財務会計上の行為をしたものではないので、被告5に対する損害賠償請求は理由がなく棄却されるべきである。

また、原告らは、被告5が「当該職員」に該当しないとしても、法二四二条の二第一項四号後段にいう「怠る事実の相手方」に該当すると主張するが、そのような代位請求は、法の定める住民訴訟の類型に該当しない。よって、法二四二条の二第一項四号後段に基づく被告5に対する損害賠償請求も、不適法であって却下されるべきである。

(6) 被告6ないし27及び29の責任

鳥羽懇談会に関する支出は、前記1(二)で述べたとおり、適法な支出であるから、被告6ないし27及び29に不当利得はない。よって、同被告らに不当利得返還義務はない。

(7) 被告30の責任

鳥羽懇談会に関する支出は、前記1(二)で述べたとおり、適法な支出であるから、被告30に不当利得はない。よって、同被告に不当利得返還義務はない。

3  横浜市視察への公金支出に係る監査請求は、法二四二条二項の監査請求期間を徒過した不適法な請求か。

(一) 原告らの主張

(1) 本件監査請求は、右交際費等の支出がされた日から一年以上経過してからなされたものであるが、本件監査請求は、怠る事実を対象とする監査請求であるから、法二四二条二項の期間制限の適用はない(最高裁判所昭和五三年六月二三日判決参照)。

(2) また、法二四二条二項の適用があるとしても、原告らには、制限期間を徒過したことにつき「正当な理由」があるから、本件監査請求は適法である。

すなわち、当該行為が秘密裡にされた場合、法二四二条二項但書にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当な注意力をもって調査したときに客観的に見て当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求したかどうかによって判断すべきである(最高裁判所昭和六三年四月二二日判決参照)。そして、住民が知り得ない場合にまで監査請求を機械的に一年に制限することは、監査請求制度をほとんど無意味にするものであるから、右にいう「秘密裡に」とは、「当該行為を住民が知り得ない又は知ることが困難な状況におかれている場合」と考えるのが相当である。

これを本件についてみると、四日市市監査委員らが、横浜市へ横浜監査委員との懇親会費を持って視察に行き、一泊し、しかも懇親会を行わず、懇親会費を自分たちの飲み食いに費消したなどということは、かつて市議会で議論されたこともなく、議会だよりや新聞で報道されたことも全くない。原告らは、たまたま情報公開請求をし、調査した結果、知ったものであるが、住民が市の全ての情報を公開請求するのは不可能であり、情報公開条例を根拠に「住民が知りえた」とするのは不合理である。しかも、情報公開された支出命令書には「横浜市監査委員と本市監査委員懇親会費用」と書かれているのだから、少なくとも、「交際費を自分たちで飲み食いした」事実は秘密裡に行われたのである。よって、本件監査請求が、支出から一年を経過した後に行われたことについては、「正当な理由」がある。

(二) 被告らの主張

(1) 横浜市視察について公金が支出されたのは平成七年一月一七日であり、原告らが監査請求をしたのは平成八年四月三日であるから、本件監査請求は、法二四二条二項に定める一年の監査請求期間を徒過した後になされた不適法な請求である。よって、これを前提とする本件訴えも不適法であり、却下されるべきである。

(2) 原告らは、本件監査請求は怠る事実を対象とするものであり、法二四二条二項の適用はないと主張するが、財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実とする住民監査請求については、右財務会計上の行為があった日または終わった日を基準として法二四二条二項を適用すべきである(最高裁判所昭和六二年二月二〇日判決参照)。

これを本件について見ると、本件監査請求は、本件交際費の違法な支出によって発生したとされる不当利得返還請求権の不行使をもって怠る事実としているものであるから、本件交際費支出の日である平成七年一月一七日を基準として、法二四二条二項の期間制限を適用すべきである。よって、本件監査請求は一年の制限期間を徒過した不適法な請求である。

(3) また、原告らは、本件監査請求が制限期間を徒過したことについて

「正当な理由」があると主張するが、本件支出は、平成六年度の四日市市一般会計予算に計上され、これに基づいて公然と行われたものであり、住民は、平成七年一一月一七日の定例議会での審議・議決の段階で本件支出の事実を知ることができた。また、本件支出の過程において、ことさら不正な処理をして、これを隠蔽した等の特段の事情の存在を認めることもできない。したがって、本件監査請求が制限期間を徒過したことにつき「正当な理由」はなく、原告らの右主張は失当である。

4  横浜市視察への公金支出は違法か。

(一) 原告らの主張

被告14、被告16、被告30ないし33は、平成七年一月一九日から同月二〇日まで、監査事務実施状況の視察のために横浜市へ出張した。しかし、右視察は、予め質問事項を決めず、視察したい施設を横浜市に要望することもせずに行われたものであって、全く、行き当たりばったりの視察というほかない。被告監査委員らは、一九日に横浜市の港の見学をしているが、港は四日市市監査委員の仕事と全く関係のない施設であり、港の見学は観光としか考えられない。また、被告監査委員らは、二〇日には、横浜市の担当者の案内もなく、横浜市美術館、人形の家、山下公園、港、横浜市の町並みを見たというが、何の案内もなく見るのでは、観光旅行との違いは全くない。以上によれば、本件横浜市視察は、きちんとした目的もなく、不必要なものであると考えられるが、少なくとも、横浜市の担当者と別れた午後四時三〇分以降には直ちに四日市市へ帰るべきであり、交際費の支出と宿泊は全く必要性のないものであることが明らかである。

また、被告監査委員らは、一九日の夜、代表監査委員の交際費三万三一七六円を使って自分たち六名の夕食を取り、翌二〇日、右交際費二万二四〇〇円を使って昼食を取っている。しかし、右交際費は、横浜市の監査委員と懇親会費用として前渡しを受けたものであって、自分たちの単なる飲み食いのために交際費を流用することは詐欺罪か横領罪に該当する行為である。また、仮に、これが監査委員と事務局職員との懇談会に費消されたとしても、「交際費」とは地方自治体の外部の者との交渉のために使うものであるから、監査委員と事務局職員という地方自治体内部の懇談会に使うことは違法である。

結局、被告監査委員らの交際費、宿泊費、二日目の日当は、被告ら六名の慰安旅行に使われたというべきであり、少なくとも不必要な理由で費消されたもので、四日市市に返還する義務がある。

(二) 被告らの主張

監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び当該団体の経営に係る事務の管理、又は必要があると認めるときはその他の事務執行を監査する権限を有するものであり(法一九九条一、二項)、その役割の重要性は近年高まっている。したがって、地方公共団体の監査委員の研鑽、研修は当該普通地方公共団体の監査事務に付随する事務であって、そのための費用は、右事務処理経費ということができる。

被告監査委員らは、平成七年一月一九日、横浜市監査委員会において、監査事務全般等を研究テーマとして、同市菊地代表監査委員及び事務局係官二名と約三時間、協議を行い、質疑応答、意見交換を行い指導を受けた。右協議会では、①土地開発公社等についての監査の方法、②近年増加傾向にある住民監査請求に関し、請求人に対して制度の内容をどのように周知させているか、③住民監査請求の要件審査の具体的方法、④住民監査請求人に対する窓口応対の仕方などの議題について意見交換や質疑応答がなされた。右協議会後、被告監査委員らは、横浜市監査事務局の庶務係長の案内で施設を視察した。また、翌二〇日には、横浜市美術館等を視察した。

被告監査委員らは、一九日及び二〇日に横浜市の監査委員及び事務局係官に出席を求めて懇談会を行う予定であったが、横浜市の監査委員らに急用が生じたため、被告監査委員ら六名で懇談会を行った。監査委員は独任制の機関であり、また常勤とは限らず、必ずしも監査事務手続の詳細まで精通していないので、前記の横浜市との協議結果について、各監査委員と事務局との間で、さらに具体的に協議することとしたものである。複数の監査委員が、共通の問題を討論し、率直に意見を交換しあい、さらに事務に関する見識を広めることは、研鑽・研修の有効な方法であるから、このような懇談会を設置することは監査事務を円滑に処理するための経費ということができる。そして、一九日の懇談会は被告六名で費用は合計三万三一七六円(一人当たり五〇〇〇円)、二〇日の懇談会は被告六名で費用は合計二万二四〇〇円(一人当たり三三三三円)にとどまっているのであり、右懇談会に係る支出が社会通念を逸脱した出費でないことは明らかである。

したがって、本件横浜市視察に係る宿泊費、日当、交際費の支出は適法であって、原告らの主張は失当である。

5  横浜市視察への公金支出に関する被告らの責任

(一) 原告らの主張

(1) 交際費について

被告32は、本件交際費の支出負担行為の専決者であるところ、同被告には、交際費を故意に目的外の行為に支出した責任がある。よって、原告らは、被告32に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号前段(当該職員に対する損害賠償請求)に基づき、損害金五万五五七六円及び不法行為の結果発生の日である平成七年一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

また、被告14、16、30、31、33は、交際費を共同して故意に自分たちの飲み食いに費消して横領したから、被告32と連帯して不法行為責任を負う。よって、原告らは、被告14、16、30、31、33に対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(怠る事実の相手方に対する損害賠償請求)に基づき、損害金五万五五七六円及び不法行為の結果発生の日である平成七年一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 宿泊費と日当について

被告14、16、30ないし33は、宿泊の必要がないのに宿泊し、宿泊費と日当を費消したのであるから、横領行為であって、不法行為責任及び不当利得返還責任を負う。よって、原告らは、同被告らに対し、四日市市に代位して、法二四二条の二第一項四号後段(相手方に対する不当利得返還請求ないし損害賠償請求)に基づき、それぞれ二日目の日当及び宿泊費(被告32については一万六一〇〇円、その余の被告らについては一万八七〇〇円)に相当する不当利得金(又は損害金)及び不当利得の日(又は不法行為の損害発生の日)である平成七年一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息(又は遅延損害金)の支払を求める。

(二) 被告らの主張

被告14、16、30ないし33は、本件交際費及び日当・宿泊代の支出について、専決権を有していないし、財務会計上の行為を行う権限を本来的に有するものでもない。よって、同被告らは「当該職員」に該当しないから、同被告らに対する法二四二条の二第一項四号前段に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求は、不適法であって却下されるべきである。

また、原告らは、被告14、16、30ないし33が、法二四二条の二第一項四号後段にいう「怠る事実の相手方」に該当すると主張するが、そのような代位請求は、前記2(二)(3)で述べたとおり、法の定める住民訴訟の類型に該当せず、不適法である。よって、同被告らに対する法二四二条の二第一項四号後段に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求も、不適法であって却下されるべきである。

さらに、被告監査委員らに対する請求が適法であるとしても、横浜市視察に関する本件支出は、前記4(二)のとおり適法であるから、被告監査委員らに損害賠償義務ないし不当利得返還義務はない。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  鳥羽懇談会への公金支出は違法か。

1  甲一号証、二三号証の2、被告3佐々木龍夫本人尋問の結果及び被告30栗本春樹本人尋問の結果によれば、本件の鳥羽懇談会が開かれるに至った経緯及びその会合の内容は、次のとおりであったことが認められる。

(一) 四日市市においては、市議会議員の任期満了時(四年毎)に、「市議会定例会終了後の懇談会」と銘打って、四日市市の幹部が議員らを招待し、鳥羽伊勢方面で懇談会を行うのが恒例となっており、かかる懇談会は約三〇年前から行われている。本件の鳥羽懇談会も、それにならって平成七年三月二三日に行われたものであり、本件懇談会には、市議会議員三九名のうち二五名、市幹部(助役・部長等)二三名、代表監査委員一名が参加した。

(二) 右参加者のうち、借り上げバスで懇談会へ行った者らは、平成七年三月二三日午後一時、バスで四日市市を出発した。バスは途中で伊勢神宮に寄り、議員一八名を含む二五名は、午後三時から三時三〇分まで外宮で、午後四時から午後五時まで内宮で参拝をした。バスは、その後、懇談会の会場がある鳥羽市へ向かった。借り上げバスに乗車しなかった者らは、各自近鉄電車で現場へ向かった。

(三) 本件懇談会は、鳥羽市のホテル「戸田屋」で、午後六時から開かれた。右懇談会は、当初から酒席の形で開催され、座敷では、参加者四九名が簀の子状に並んだ。そして、初めに、助役が議員らに対する感謝の挨拶をした後は、乾杯が行われ、すぐに料理が運ばれた。参加者は、食事や酒をとりながら、各自で歓談したが、特に話し合うべき議題が定まっていたわけではなく、それぞれが移動しながら雑然と話を交わすという形態であった。また、酒席ではコンパニオン八名が同席し、二時間余の懇談会の間に、日本酒一五〇本、ビール六六本、吟醸酒四本(一人当たりビール一本・日本酒三〜四本分)が費消された。

(四) 懇談会は、午後八時半過ぎころに終了した。鳥羽懇談会は、四日市市への帰着時間が午後九時を過ぎることから宿泊を前提として計画されていたが、被告6ないし10を除く参加者は、所用のため日帰りとし、それぞれバスないし近鉄電車で四日市市へ帰った。被告6ないし10は、鳥羽で一泊し、翌日に公用車ないし近鉄電車で四日市市へ帰った。

2 以上の事実関係を前提に、鳥羽懇談会の適法性について考えるに、地方公共団体の議会と執行機関は、権力分立の原則に基づいて相互に牽制し合う立場にあるものであるが、その間においても、普段から十分な意思の疎通を図ることが職務遂行上必要であることは否定できないところであるから、地方公共団体の執行機関が、そのような目的のために市議会議員を招いて意見交換を行い、また、その際にできるだけ率直な話合いをするため儀礼的な接遇を伴う懇談会を行うことも、地方自治体の職務に関連する行為として許されると解するのが相当である。しかし、かかる懇談会が本来の目的を離れ、或いはそれに藉口して、徒らな遊興や宴会に変容しているような場合には、もはやそれは地方自治体の職務と関連性を有する会合とは認められないから、このような懇談会へ公金を支出することは許されない。したがって、会の目的、内容、場所、行程、参加者の顔ぶれ、開催に要した費用等に照らし、当該懇談会が社会通念上儀礼の範囲を逸脱し、当該接遇が地方公共団体の職務遂行に伴うものとは認められない場合には、懇談会に要した費用を公金から支出することは許されない。また、仮に当該接遇が地方公共団体の職務遂行に伴うものと認められる場合であっても、各費目の支出ごとに検討し、当該職務の目的・効果と関連せず、又は目的・効果との均衡を著しく欠く支出がある場合には、右支出は違法になるというべきである。

3  そこで以下、かかる観点からみて、鳥羽懇談会に係る支出が四日市市の職務遂行に伴う支出であるか否かについて検討することとする。

(一) 鳥羽懇談会の目的・内容

被告らは、鳥羽懇談会の目的は、市政一般について、市民の代表である市議会議員と市幹部が意見交換・情報交換を行い、今後の市政の適正かつ円滑な運営・発展を図る点にあったと主張する。

しかし、鳥羽懇談会の実際の内容を見てみれば、懇談会において、飲食抜きの意見交換の場が設けられた事実は全くないのであって、午後六時に参加者が「戸田屋」に集合すると直ちに宴席が開かれている。また、宴席で飲食を始める前に、市政に関する報告や質疑応答などが行われたこともなく、助役が議員らに対する謝辞を述べた後は、被告らは、直ちに乾杯をして飲食に移っているのである。そして、宴席においては、コンパニオン八名が同席するなか、多量の酒(ビール・日本酒合わせて一人四〜五本)を飲みながら、具体的な議題も定めずに、各々が自由に話をしたというのであり、参加者が現実に市政に関する意見交換を行っていたのかどうか全く不明である。このような懇談会の具体的内容に照らせば、鳥羽懇談会が、市幹部と議員による市政に関する意見交換会という名に相応しい実質を伴っていたとは俄に認めがたいといわざるをえない。

これに対し、被告3は、懇談会ではいろいろと有意義な意見交換がなされたと供述する。しかし、意見交換の内容に関する同人の供述は具体性に乏しいうえ、懇談会の後に意見交換の結果を正式に集約したこともないというのであるから、被告3の右供述は容易に信用することができない。また、被告3は、コンパニオンは配膳係の補充要員であると思うとも供述しているが、右供述は同被告の推測に基づくものであって、俄に信用することができない。以上の内容によれば、鳥羽懇談会が、真実、市幹部と市議会議員との意見交換を目的としたものであったとは言い難い。

(二) 伊勢神宮参拝

鳥羽懇談会の参加者のうち議員一八名を含む二五名は、「戸田屋」へ赴く途中に、約一時間半の時間をかけて伊勢神宮を参拝しているところ、伊勢神宮参拝は四日市市の職務と何ら関連性を有しないものであるから、少なくとも右参拝に関しては、職務外の目的であことが明らかである。被告3は、伊勢神宮に寄ったのは単なる休憩のためであって、本件懇談会とは何の関係もないと供述するが、約一時間半をかけて外宮と内宮を参拝しているのであるから、これを単なる休憩であると認めることはできない。むしろ、被告30の供述によれば、伊勢神宮参拝は鳥羽懇談会の恒例行事であることが認められるのであるから、伊勢神宮参拝は、鳥羽懇談会と不可分一体の催しであると認めるのが相当である。そして、懇談会の一部に、明らかな職務外行事が組み込まれていることは、鳥羽懇談会全体がそもそも遊興目的なのではないかとの疑念を生じさせるものである。

(三) 会場設定

鳥羽懇談会は、三重県内でも有数の観光地である鳥羽市内のホテルで開かれ、鳥羽での宿泊を前提として計画がなされている(現実に被告6ないし被告10が宿泊している)。しかし、被告3の供述によっても、市幹部と議員が意見交換を行うために、四日市市から約八〇キロメートルも離れた鳥羽市を会場としなければならなかった合理的理由は何ら認められないのであって、観光地のホテルで泊まりがけの懇談会をするという会場設定も、遊興・宴会目的を疑わせるものである。

(四) 懇談会に要した経費

鳥羽懇談会に支出された公金は、前記第二の一2(一)のとおり、懇談会費九二万八一四二円、借り上げバス費七万五〇〇〇円、議員の旅費二二万〇二五〇円、監査委員の旅費七九八〇円であり、その合計金額は一二三万一三七二円である。これを一人当たりの金額に換算すると、利用人数が不明な借り上げバス費を除外したとしても、議員一人平均で二万八〇〇〇円余りであり、宿泊をした被告7ないし被告10に至っては、一人で四万二七一一円もの公金が費消されている。しかも、右代金にはコンパニオン八名分の代金一四万四〇〇〇円が含まれているのであり、右コンパニオン代金だけでも一人当たり三〇〇〇円弱の公金が支出されている。そして、鳥羽懇談会への参加者が、市議会議員と助役以下の市幹部という地位・身分の高い者らであったことを勘案すれば、接遇の内容がある程度高次にならざるをえないことは理解しうるものの、その点を考慮したとしても、右金額は、意見交換に付随する接遇の内容としては高額に過ぎるというべきである。

(五) 結論

以上によれば、鳥羽懇談会の名目は、市幹部と議員らが市政に関する意見交換を行うことにあったというのであるが、右懇談会の内容、行程、会場設定、懇談会に要した費用の総額等の諸点に照らすと、鳥羽懇談会による接遇は、四日市市がその職務遂行の必要上、社交儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行ったという態様・内容のものであるとは言い難く、これを客観的にみれば、市幹部及び議員らによる宴会・遊興それ自体をその主たる目的とするものとみられてもやむをえないものというべきである。したがって、鳥羽懇談会に対する支出は、四日市市の職務遂行に伴う支出とは認められず、右懇談会に関する支出は全体として違法であると解するのが相当である。

なお、付言するに、被告3は、鳥羽懇談会の目的の一つには、任期を終えた議員らに対する感謝・慰労もあったと供述しているが、懇談会を主催した行政側の決裁資料(甲第一八号証の1)には、件名として「市議会定例会終了後の懇談会」と書かれているのであって、右記載内容からは、議員らに対する感謝・慰労が会の主目的であったとは認められない。したがって、被告3の右供述は、鳥羽懇談会の主目的が宴会・遊興それ自体にあるとの前記認定を左右するものではない。また、仮に退職議員に対する感謝・慰労が懇談会の目的に含まれるとしても、懇談会の場所、内容、経費等に照らせば、鳥羽懇談会は退職議員に対する感謝・慰労の方法としては、過度・不適のものであるというべきである。

したがって、鳥羽懇談会に関する、懇談会費、バス借り上げ費、議員の旅費、代表監査委員の旅費の支出は、いずれも違法であると認められる。

二  鳥羽懇談会への公金支出に関する被告らの責任

1  被告1加藤寛嗣(当時の市長)

(一) まず、被告1が、法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」に該当するか否かを検討するに、「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものである(最高裁判所昭和六二年四月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁参照)。

そして、普通地方公共団体の長は、予算の執行等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有する者であるから(法一四九条)、被告1は、普通地方公共団体の長として、本件各財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものである。

もっとも、四日市市においては、四日市市事務専決規程により、市長の権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしており、鳥羽懇談会の懇談会費・バス借り上げ費の財務会計行為も被告2及び4が専決したものであるが、被告1は、市長として、右財務会計行為上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものである以上、右財務会計行為上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟においては、法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」に該当すると解するのが相当である(最高裁判所平成三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一四五五頁参照)。

(二) そこで次に、被告1が、鳥羽懇談会の懇談会費及び借り上げバス費の支出について損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、専決を任された補助職員が長の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合、長は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一四五五頁参照)。

これを本件について見ると、被告30の供述及び前記一1認定事実によれば、鳥羽懇談会は、三〇年来行われている恒例の行事であり、その規模・形式も従前から変わっていないことが認められるのであるから、二〇年以上四日市市の市長を務めていた被告1は、本件鳥羽懇談会の開催・内容等を当然に承知していたものと推認される。しかるに、被告1は、被告2及び4が違法な支出負担行為及び支出命令を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失によって右違法行為を阻止しなかったのであるから、補助職員たる被告2及び4がした財務会計上の違法行為によって四日市市が被った損害について賠償責任を負うと解するのが相当である。なお、弁論の全趣旨によれば、被告1を、平成七年三月一〇日から四月二〇日まで四日市病院に入院していたことが認められるが、被告1は議員らの任期が終了する同年三月に鳥羽懇談会が開かれることを知っていたはずであるから、右財務会計上の違法行為を阻止する機会は十分にあったというべきであって、被告1の責任は免れ得ない。よって、被告1は、法二四二条の二第一項四号前段に基づき、懇談会費九二万八一四二円及びバス借り上げ費七万五〇〇〇円(合計一〇〇万三一四二円)の支出負担行為及び支出命令により四日市市が被った損害について賠償責任を負う。

2  被告2加藤宣雄(当時の助役)

(一) 懇談会費について

被告2が、懇談会費の支出について、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するか否かを検討するに、被告2は、前記第二の一2(一)のとおり、四日市市事務専決規程により、鳥羽懇談会の懇談会費につき、支出負担行為の専決を任されている者である。そして、「当該職員」には、当該普通地方公共団体の内部において、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれると解するのが相当である(最高裁判所平成三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一五〇三頁参照)から、被告2は、同号にいう「当該職員」に該当する。

次に、被告2が、懇談会費の支出について損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、被告2は違法な支出負担行為を専決してはならない義務があるにもかかわらず、本件懇談会費への公金支出について何ら検討することなく、漫然と右懇談会費九二万八一四二円の支出負担行為を専決したことが、被告3の供述より認められるから、故意又は重大な過失により違法な支出負担行為を行ったものと認められる。よって、被告2は、法二四二条の二第一項四号前段に基づき、被告1と連帯して、懇談会費九二万八一四二円の支出負担行為により四日市市が被った損害の賠償責任を負う。

(二) バス借り上げ費について

(1) 「当該職員」としての損害賠償責任の有無

被告2が、バス借り上げ費の支出について「当該職員」に該当するか否かを検討するに、バス借り上げ費については、前記第二の一2(二)のとおり、四日市市事務専決規程により、支出金額の多寡に応じ、助役、市長公室長又は課長が、支出負担行為ないし支出命令を専決することとなっているから、被告2は、バス借り上げ費の支出について、「当該職員」に該当する。

次に、被告2が、バス借り上げ費の支出について「当該職員」として損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、鳥羽懇談会のバス借り上げ費について、現実に支出負担行為及び支出命令を専決したのは、前記第二の一2(二)のとおり、被告4であって、被告2がバス費について現実に財務会計上の行為をしたものとは認められないから、被告2には、「当該職員」としての損害賠償責任はない。この点に関する原告らの主張は理由がない。

(2) 「怠る事実の相手方」としての損害賠償責任の有無

① 被告2が、バス借り上げ費の支出について、法二四二条の二第一項四号後段にいう「怠る事実の相手方」に該当するか否かについて検討するに、「怠る事実の相手方」とは、当該訴訟の原告により、訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者を広く意味するものと考えるのが相当であるから、地方公共団体の職員たる被告2も「相手方」に該当すると解される。

これに対し、被告らは、地方公共団体の職員を相手方とする四号後段請求が認められるならば、法が住民訴訟の対象を一定の財務会計行為に限定した趣旨を没却すると主張する。しかし、職員を「相手方」としてなす請求の場合でも、訴訟の対象となっているのは、職員に対する損害賠償請求権の不行使という財務会計行為であるから、法が住民訴訟の対象を一定の財務会計行為に限定した趣旨を没却するものではない。また、私人の行為により地方自治体が損害を受けた場合には、当該私人は「相手方」として代位請求を受けうるのであるから、職員が非財務会計行為によって地方自治体に損害を与えた場合にも同様に解するのでなければ不合理である。法二四二条の二第一項四号の文言上も、「相手方」の範囲に制限を設けていない。したがって、法二四二条の二第一項四号後段に基づく、被告2に対する請求も訴えとしては適法というべきであって、被告らの右主張は採用できない。

② 次に、被告2が、バス借り上げ費の支出について「怠る事実の相手方」として損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、原告らは、被告2は違法な鳥羽懇談会を実質的に決定したのであるから、不法行為責任ないし債務不履行責任を負うと主張する。

しかし、バス借り上げ費についての支出負担行為及び支出命令の意思決定は、本来、もっぱら専決者である被告4に任されているものであるし、関係各証拠を精査しても、被告2が意思決定権限を有する被告4に事実上影響力を行使してバス借り上げ費の支出行為をなさしめたなど、被告2が右支出行為を実質的に決定したことを認めるに足りる証拠は提出されていない。したがって、被告2に不法行為責任ないし債務不履行責任は成立せず、同被告に「怠る事実の相手方」としての損害賠償責任は認められない。原告らの右主張は理由がない。

3  被告3佐々木龍夫(当時の市長公室長)

(一) 「当該職員」としての損害賠償責任の有無

被告3が、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について「当該職員」に該当するか否かを検討するに、懇談会費及びバス借り上げ費については、前記第二の一2(一)(二)のとおり、四日市市事務専決規程により、支出金額の多寡に応じ、助役・市長公室長又は課長が、支出負担行為ないし支出命令を専決することとなっているから、被告3は、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について、「当該職員」に該当する。

次に、被告3が、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について「当該職員」として損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、鳥羽懇談会の懇談会費及びバス借り上げ費について、現実に支出負担行為及び支出命令を専決したのは、前記第二の一2(一)(二)のとおり、被告2及び被告4であって、被告3が懇談会費及びバス借り上げ費について現実に財務会計上の行為をしたものとは認められないから、被告3には、「当該職員」としての損害賠償責任はない。この点に関する原告らの主張は理由がない。

(二) 「怠る事実の相手方」としての損害賠償責任の有無

被告3が、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について「怠る事実の相手方」に該当するか否かを検討するに、被告3は、原告らから、懇談会費及びバス借り上げ費の支出に関して、四日市市に対して損害賠償義務を負っていると主張されている者であるから、「怠る事実の相手方」に該当する。

次に、被告3が、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について「怠る事実の相手方」として損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、原告らは、被告3には、違法な鳥羽懇談会を実質的に決定した不法行為ないし債務不履行があると主張する。しかし、懇談会費及びバス借り上げ費についての支出負担行為及び支出命令の意思決定は、本来、もっぱら専決者である被告2及び4に任されているものであるし、関係各証拠を精査しても、被告3が意思決定権限を有する被告2及び4に事実上影響力を行使して各支出行為をなさしめたなど、被告3が各支出行為を実質的に決定したことを認めるに足りる証拠は提出されていない。したがって、被告3に不法行為責任ないし債務不履行責任は成立せず、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(三) 「当該行為の相手方」としての不当利得返還責任の有無

被告3が、鳥羽懇談会で飲食した懇談会費について、「当該行為の相手方」に該当するか否かについて検討するに、被告3は、原告らにより、違法に支出された懇談会費に関して四日市市が有する不当利得返還請求権を履行する義務があると主張されている者であるから、「当該行為の相手方」に該当する。

次に、被告3が、鳥羽懇談会で飲食した懇談会費について、不当利得返還義務を負うか否かについて検討するに、被告3の供述によれば、同被告は鳥羽懇談会に参加し、違法に支出された懇談会費を費消したことが認められるから、同被告が費消した金額につき不当利得返還義務を負う。そして、議員二五名に渡された土産代三万八七五〇円を除く懇談会費の総額は八八万九三九二円であり、これを参加者四九名で除すと、一人当たりの金額は一万八一五〇円であるから、被告3は、法二四二条の二第一項四号後段に基づき、四日市市に対し、右金額相当額の不当利得返還責任を負う。

4  被告4田中俊光(当時の秘書課長)

被告が、懇談会費及びバス借り上げ費の支出について、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するか否かを検討するに、被告4は、前記第二の一2(一)(二)のとおり、懇談会費に関する支出命令並びにバス借り上げ費に関する支出負担行為及び支出命令につき、専決権を有している者であるから、「当該職員」に該当する。

次に、被告4が、懇談会費の支出について、損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、被告4は本件懇談会費に係る支出負担行為が違法であることを知り得たにもかかわらず、何ら是正の措置を執ることもなく、漫然と懇談会費の支出命令を専決したことが、被告3の供述より認められるから、故意又は重大な過失により違法な支出命令を行ったものと認められる。また、被告4が、バス借り上げ費の支出について、損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、被告4は、違法な支出負担行為を専決してはならない義務があるにもかかわらず、バス借り上げ費の支出につき何ら検討しないまま、漫然とバス借り上げ費の支出負担行為を専決したことが認められるから、故意又は重大な過失により違法な支出負担行為を行ったと認められる。よって、被告4は、法二四二条の二第一項第四号前段に基づき、被告1及び2と連帯して懇談会費九二万八一四二円、被告1と連帯してバス借り上げ費七万五〇〇〇円の各支出により四日市市が被った損害について賠償責任を負う。

5  被告5長谷川昭彦(当時の議会事務局長)

被告5が、議員らの旅費の支出について、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するか否かを検討するに、同市議会事務局長は、前記第二の一2(三)のとおり、四日市市議会事務局長に委任する事項を定める規則に基づき、市議会の所掌に係る事項に関する予算の執行を、市長より委任されているものであるから、「当該職員」に該当する。

次に、被告5が、議員らの旅費の支出について「当該職員」として損害賠償責任を負うか否かについて検討するに、議会事務局長は、議員らの旅費についての支出負担行為及び支出命令の専決を議会事務局議事課長へ任せているから、補助職員たる議事課長が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は重大な過失により議事課長が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかった場合に限り、右違法行為により発生した損害について賠償責任を負うと解される。そして、被告5は、議会事務局長として議会の事務を掌理し、自分自身も鳥羽懇談会に参加し、鳥羽懇談会の開催・内容等については当然に承知していたにもかかわらず、議事課長が違法な支出負担行為及び支出命令を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は重大な過失によって右違法行為を阻止しなかったのであるから、補助職員たる議事課長がした財務会計上の違法行為によって四日市市が被った損害について損害賠償責任を負う。したがって、被告5は法二四二条の二第一項四号前段に基づき、議員の旅費二二万〇二五〇円の支出負担行為及び支出命令により四日市市が被った損害の賠償責任を負う。

6  被告6ないし27、29(当時の市議会議員)

被告6ないし27、29が、鳥羽懇談会において費消した懇談会費及び旅費について、「当該行為の相手方」に該当するか否かについて検討するに、同被告らは、原告らにより、違法に支出された懇談会費に関し四日市市が有する不当利得返還請求権を履行する義務があると主張されている者であるから、「当該行為の相手方」に該当する。

次に、被告6ないし27、29が、右懇談会費及び旅費について不当利得返還義務を負うか否かについて検討するに、前記第二の一2によれば、被告6ないし27、29は、鳥羽懇談会に参加し、違法に支出された懇談会費及び旅費を費消して不当に利得を得たことが認められるから、それぞれが費消した金額につき不当利得返還義務を負う。そして、土産代を除く懇談会費は一人当たり一万八一五〇円、議員一人当たりの土産代は一五五〇円、被告6ないし27、29が費消した旅費は別紙旅費目録記載のとおりであるから、被告6ないし27、29は、法二四二条の二第一項四号後段に基づいて、四日市市に対し、一人当たりの懇談会費(土産代を含む。)及び各人の旅費に相当する金額について不当利得返還責任を負う(但し、懇談会費については、現実に右被告らが利得した一万九七〇〇円のうち、原告らが請求する一万八九四一円に限って責任を認めるものである。)。

7  被告30栗本春樹(当時の代表監査委員)

被告30が、鳥羽懇談会に関して費消した旅費について「当該行為の相手方」に該当するか否かについて検討するに、同被告は、違法に支出された懇談会費に関し四日市市が有する不当利得返還請求権を履行する義務があると主張されている者であるから、「当該行為の相手方」に該当する。

次に、被告30が、右旅費について不当利得返還義務を負うか否かについて検討するに、前記第二の一2によれば、被告30は、鳥羽懇談会に参加し、違法に支出された旅費を費消して不当に利得を得たことが認められるから、法二四二条の二第一項四号後段に基づき、四日市市に対し、同被告が費消した旅費七九八〇円の不当利得返還責任を負う。

三  横浜市視察への公金支出に係る監査請求は、法二四二条二項の監査請求期間を徒過した不適法な請求か。

1(一)  前記第二の一3及び4によれば、横浜市視察に関する交際費・宿泊費・日当が支出されたのは平成七年一月一七日、原告らが監査請求をなしたのは平成八年四月三日であることが認められるところ、原告らは、「怠る事実」を対象とする監査請求には法二四二条二項の適用はないから、本件監査請求に制限期間を徒過した違法はないと主張する。

(二)  そこで、本件監査請求に法二四二条二項の適用があるか否かを検討するに、原則として、「怠る事実」を対象とする監査請求については、同条二項の期間制限の適用はないと解される(最高裁判所昭和五三年六月二三日第三小法廷判決・判例時報八九七号五四頁参照)が、「怠る事実」の是正を求める監査請求であっても、当該監査請求が、当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実としているものであるときは、当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条二項の規定を適用すべきと解するのが相当である(最高裁判所昭和六二年二月二〇日第二小法廷判決・民集四一巻一号一二二頁参照)。

(三)  これを本件について見ると、原告らは、横浜市視察について交際費や宿泊費等を支出されたことを違法とし、四日市市が被告監査委員らに対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を行使しないことをもって、「怠る事実」としているものである。とすれば、原告らは、財務会計上の行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって、「怠る事実」としているものであるから、本件監査請求については、右支出がなされた平成七年一月一七日を基準として法二四二条二項を適用するのが相当である。したがって、本件監査請求は、法二四二条二項本文の期間制限を徒過したものであって、原告らの右主張は採用することができない。

2(一)  次に、原告らは、仮に本件監査請求に法二四二条二項が適用されるとしても、原告らが制限期間を徒過したことについては、同項但書に定める「正当な理由」があるから、本件監査請求は適法であると主張する。

(二)  そこで検討するに、法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の執行機関・職員の財務会計上の行為は、たとえそれが違法・不当なものであったとしても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして、監査請求の期間を定めたものである。しかしながら、当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡に行われ、一年を経過してから初めて明らかになった場合等にも、右の趣旨を貫くことが相当でないことはいうまでもない。そこで、同項但書は、「正当な理由」があるときには、例外として、当該行為にあった日又は終わった日から一年を経過した後であっても、普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるとしたのである。したがって、同項但書にいう「正当な理由」の有無は、当該行為が秘密裡になされた場合において、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁判所昭和六三年四月二二日第二小法廷判決・判例時報一二八〇号六三頁参照)。

(三) これを本件について考えるに、弁論の全趣旨によれば、横浜市視察に関する費用は、支出負担行為・支出命令・支出と正式な会計手続を経て支出され、平成七年一一月一七日には定例議会の議決を経たものであることが認められるから、本件支出自体が、住民に隠れて秘密裡に行われたとの事実は認められない。また、本件の場合には、被告監査委員らが、横浜市視察の内容・目的など本件支出の違法性を基礎づける前提事実について、ことさら隠蔽工作を行ったなどの事情は認められないから、住民としては、本件支出がなされた事実に基づいて或いはこれを端緒として、右支出が違法・不当なものであるか否かを調査することが十分可能であったと認められる。

以上によれば、本件支出が住民に隠れて秘密裡になされたと認めることはできないから、本件監査請求が制限期間経過後になされたことにつき「正当な理由」があるとは認められず、本件監査請求は不適法である。そして、法二四二条の二第一項本文によれば、住民が住民訴訟を提起するためには、適法な監査請求を経ていることが必要であるから、右要件を満たさない本件訴えは不適法であって却下されるべきである。

四  結論

以上によれば、原告らの請求のうち、被告1、4、5に対する請求並びに被告6ないし13、15、17ないし27及び29に対する請求は理由があるからこれを認容し、被告2に対する請求は主文二項の限度で、被告3に対する請求は主文三項の限度で、被告14及び16に対する請求は主文七項の限度で、被告30に対する請求は主文一〇項の限度で理由があるから認容し、被告2及び3に対するその余の請求は理由がないから棄却し、被告14、16及び30に対するその余の請求並びに被告31ないし33に対する請求は不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき主文一五項のとおり定め、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山川悦男 裁判官新堀亮一 裁判官渡邉千恵子)

別紙旅費目録<省略>

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